別冊トランスアーツ|タカシカワタ



































ヨーロッパを源流とするロートアイアン。
その技法や作風には多様な存在する。
テレビドラマの小道具に採用されたが、
配役を圧倒してしまう鉄の存在感。
タカシカワタ流のオリジナリティとは。
鉄に込めるマインドに迫る。






テレビ番組「ライアーゲーム」でセットとして使われた「ひまわりオブジェ」はそもそもどのようなテーマで創られたものですか。

これは、「抱夏弾秋(ほうかだんしゅう)」という作品名で個展に出展しようとしたものです。由来は字のごとく、夏を抱いて秋に弾ける、という意味合いがあります。


どんな製作過程でしたか。

製作は2009年でした。その年、かねてより自分を賭した作品を作ってみたいと思い、春先より構想を固め、秋口に新作を多数揃えた個展を計画していました。

ところが、日々のオーダー制作に追われ、展示用の作品を作る時間を捻出できずに、創作意欲を持て余す悶々とした夏を迎えていました。情熱ばかりが先行してしまい、作りたい気持ちと裏腹にジレンマを抱えたままでした。

そんな夏のある日、某ボーカルダンスグループのPVに強く感化されてしまいまして、一気に熱が噴き出したというか、閃いたと言いましょうか、数多く並べることより、練っていた案をまとめて、ひとつの作品にしてしまおう!と。

それで、個展ではないが、秋にある大きな展示会の1ブースに出展するための作品にしようと、ようやく取り掛かかることができました。

アイデアがひとつのカタチに集約された分、腕試し的な作品ともいえます。


オブジェが放つ仄かな灯りは、ドラマの道具として自重しているようにも見える一方で、出演者を食っていた存在感を見せつけました。
オブジェに内在する思想というものがあるとすれば、それはドラマでまさに自己完結したと言えるでしょうか。

ドラマ(ライアーゲーム)の中で異彩を放っていたこと。これはひとえに収録を手掛けた監督の感性だったことと思います。

しかし、その画面から放たれるオブジェの存在感に、自分でさえ強く惹きこまれました。まるでライアーゲームの世界観を知っていたかのような、造形でした。これには驚きました。

私はオファーを受けて初めてライアーゲームを知ったのですから。ドラマの美術デザイナーさんからの直のオファーでした。

そう言った意味では、チョイスしてくださった美術さんと、監督さん、お二方の感性なくしてこの出演はありませんでした。お力を借りることで、オブジェとしては完結できたのだと、強く認識しています。


その意味では、このオブジェが「ライアーゲーム」に出逢ったのは運命的だと。

そうですね。お声掛けいただいたタイミング的にも、そうだと思っています。

作りたいもののアイデアをひとつにまとめた単体作品であったこと、高さがドラマセットの高さにぴたりと嵌ったこと、ドラマの続編となる映画への世界観をも抽象していたことなど、さまざまな要因が全てドンピシャでしたから(笑)。


ところで、ファクトリーのテーブルには白チョークの落書きがあります。
鉄をカタチにするアイディアの源泉は、どこにありますか。

そこらじゅうに転がっています。

いいな、と思ったことに私の内なる感性を掛け合わせて、今もいくらでも湧いて出てきます。そこに対して、鉄の持つ特性と、技法とを織り交ぜてカタチとしてはじめて現れます。


そのアイディアは、どのように膨らみ、カタチを成し、作品として実を結びますか。たとえば、「ひまわり」の場合は。

ひまわりの場合は、前述のように、当初、複数の作品群として構成していたものです。

そのイメージは、まず2005年に製作した背の高い青いランプの作品の続編として樹のようなそれがいくつかあって、傍ではひまわりの照明が咲き、周りに柵のような造形を巡らせて、人がその作品たちのなかで戯れられる、といったスケールの大きな構成を漠然と抱いていました。

ところが、時間の制約もあり全てを製作しきれないことが分かった時、ひとつにまとめてしまおうと。その時までの過程が長すぎましたが、結果的にそれが全てでもありました。

つまりその瞬間、頭の中で作品が完成したわけです。単体で表現するにはある程度の大きさが必要と考え、まずはひまわりの花の照明が地中から大きく太陽に向かう。そのひまわりを這って抱きかかえながら、蔓が上へ上へと。


この作品に限らず、あなたの作品では蔦の動作が独特です。

この作品では、内なる情熱の具現化とでもいいましょうか、情熱を蔓や葉に変えて、うねらせ、広げ、宙を自由に掴むような、泳ぐような造形を意識しています。

また、その中に浮遊するガラスの徳利を使った照明には、秋を連想させる赤を使いました。


光をうまくお使いになる。

私は照明を使った作品が好きで、この作品もその代表ですが、照明を取り入れるために、パイプ材を多用します。

パイプの中に電気コードを通すことでコードを隠せますので、このパイプをどうカタチにとり込むかが、そのカタチを決定させる大きな要因となります。

周りの蔓や葉はパイプを支える補強材の役割だったり、パイプの存在を隠すための装飾であったりします。


製作でいつも念頭に置いていることは。

機能とデザインの融合が、いつも基本にあります。

ひまわりの作品でも、ガラスの徳利の位置は人の背丈を十分にクリアできる位置に配し、必然と高さのある造形となった所以ですね。

全体的な造形としては、下方が細く、上方が大きく、自立に不安定なため、円弧状の柵を設け、合体させることで安定感を生みました。


コークスに対面している際、鉄は思い通りに姿を変えてくれますか。

そうですね、思いの丈を余すことなく投影してくれます。日々、求める造形の質も高くなりますから、もっぱら研究あっての満足感ではありますが。

コークスですが、実は今、これにとって代わる、石炭に手を出し始めています。コークスの燃焼は強く、素材を瞬時に溶かしてしまうことが多く、やや難点があります。

これが石炭ですと、高温に達する際に素材全体として万遍なく熱が入り、より加工しやすいのが特徴です。


作品を鉄で創るという場合、技術的に障害というものはあるのでしょうか。

どうなのでしょうね、作ることに特化すれば、ないのではないでしょうか。少なくとも私はそう考えます。

モチベーションでは、力尽きて死する時まで、永遠に、創意工夫を楽しみ、成し得るのではと考えています。


あなたにとっての「Garden of Eden.」とは。

「現時点で考えられる、理想とする造形を成せる瞬間」というところでしょうか。

実際は全然追いついていません。もっともっと腕を磨き、いつかきっと、、、と精進することはもちろんなのですが、その道中、求めるレベルがより高くなるものと容易に想像つきます。

生きて居られるうちに、終わり、果てはあるのでしょうか。

追い続けていけることに、その境遇に、感謝しながら、この道がまさに楽園だと認識しています。


ロートファクトリーでは、鉄と火に向き合う日々。あなたが、作品に込めるものとは、いったい何でしょう。あるいは、造形家「タカシカワタ」の世界観とは。

心、そのひとつです。人対人、熱の伝導、想い、全てです。

抽象すぎる表現しかできませんが、自然はもちろん、会う人、関わる人、
それは人が行った行為や造形物も含み、あらゆることから刺激をいただき、広がりを持ち続けています。

そんな心の投影ですから、もし世界観があるとするならば、この世の理に似たものの模索として、日々成長し続けていけると思います。


今、構想中の創作オブジェがありましたら、教えてください。

一番身近かなもので、家具です。
鏡を使った照明オブジェは制作中です。

それから、膨大な時間を要しますが、大きな門扉から派性された門柱やフェンスなど、それらが一体となった外構まるごと。
ギミックの付いた巨大なメリーゴーラウンド。
樹から鉄で作る大きなツリーハウス。
天体のできるガラス張りのドーム。
牢屋のような中空部屋。
人の乗れるブランコシャンデリア、、
尽きませんねえ(笑)。

でも、折をみて次に作りたいものは、おととしに頓挫しているオブジェです。

空洞のドーム上で淡い色の灯りが照らす大きな羽が、回転しながら移動のできる三車輪です。漕ぎます。「ギヤマンラプソディー」という作品名で、蜻蛉を意識した強大な造形です。

近未来のロートアイアンを想像してみたいと思います。
そこで、あなたが表現したい作品は、どのような姿でしょう。

伝統的な技法をより巧みに取り入れた、新たなカタチ。

温故知新の姿勢を進化させて、新たな技法を生み出し使った作品ですね。おそらくとてもシンプルなのではないかと考えています。

具体的には部材のひとつひとつに、魂が入っているような、生き物のような、その集合体を想像しています。







タカシ カワタ

河田崇 Takashi Kawata 鉄工芸家

1973年生まれ。桐生市出身。
タカシカワタ鉄工芸工房主宰(伊勢崎市)。

ヨーロッパ仕込みの伝統的ロートアイアン工法を独学で習得以来、
独自の技法を編み出し、モダニズム工法としての造形美を追求する。
「叩き」、「延ばし」、「曲げ」、「捩じり」、「据え込み(圧縮)」の技を駆使。
叩きと伸ばしの合体からは鉄独特の流線と曲線の美が作り上げられる。
モチーフの多くは自然の有機的な造形が取り入れられ、
とくに植物の蔓を多用することから、「蔓のカワタ」の異名をもつ。

タカシカワタ鉄工芸工房への問い合わせは、こちらまで。




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